〔松の針はいま白光に溶ける〕

   

   松の針はいま白光に溶ける。

   (尊い金はなゝめにながれ……)

   なぜテニスをやるか。

   おれの額がこんなに高くなったのに。

   

   日輪雲に没し給へば

   雲はたしかに白金環だ。

   松の実とその松の枝は

   黒くってはっきりしてゐる。

   

   雲がとければ日は水銀

   天盤も砕けてゆれる

   どうして、どうしておまへは泣くか

   緑の針が波だつのに。

   

   横雲が来れば雲は灼ける、

   あいつは何といふ馬鹿だ。

   横雲が行げば日は光燿

   郡役所の屋根も近い。

   

   (あゝ修羅のなかをたゆたひ

   また青々とかなしむ。)

   

   おれの手はかれ草のにほひ

   眼には黄いろの天の川

   黄水晶の砂利でも渡って見せやう

   空間も一つではない。

   

   風のひのきをてらし

   太陽は今落ちて行く

   春の透明の中から

   遠いことばが身を責める。

   

   朝はかれ草のどてを

   黄いろのマントがひるがへり

   ひるすぎはやなぎ並木を

   上席書記がわらって来る。