一九二七年に於ける

  盛岡中学校生徒諸君に寄せる

 

 

   四葉の稿紙が

   (以下空白)

 

 

 

 

   凍った雲や重いひばから鎖された

   これらの陰冷な小屋の土間に

   諸君といっしょに小学に居た

   わかものたちが集ってゐる

   今朝の未明に打って来た藁たばから

   忙しくその一本づつ或は二本づつをとって

   諸君が物理で偶力として習ふあの力を

   若いながらに畸形に堅まった両の掌から作り出して

   朝が熟して昼になり昼が疲れて影になるまで

   一日いっぱい所謂縄を綯ってゐる

   (之等の努力は或ひは貨幣に換へられる

   一日に得る乾いた黄色のこの束は

   どんな上手な綯ひ手でも

   いちばん小さなニッケル片の

   九枚を超えることはない

   もし原料の藁の価格を差引けば

   そこには二枚或は四枚を僅に残す)

   働きながら倒れながら

   そのある者は声高く云ふ

     (彼等はみんなわれらを去った。

      彼等にはよい遺伝と育ち

      あらゆる設備と休養と

      茲には汗と吹雪のひまの

      歪んだ時間と粗野な手引きがあるだけだ

      彼等は百の速力をもち

      われらは十の力を有たぬ

      何がわれらをこの暗みから救ふのか

      あらゆる労れと悩みを燃やせ

      すべてのねがひの形を変へよ)

      やがてかれらのあるものは

      諸君に異る方向ながら

   恐らく大なる速さを得やう

   その実例は自然のなかに歴史のなかに余りに多い

   新らしい風のやうに爽かな星雲のやうに

   透明に愉快な明日は来る

   諸君よ紺いろした北上山地のある稜は

    速かにその形を変じやう

   野原の草は俄に丈を倍加しやう

   あらたな樹木や花の群落が

      丶

      丶

      丶

      丶

      丶

   

   

 

     

   諸君よ 紺いろの地平線が膨らみ高まるときに

   諸君はその中に没することを欲するか

      丶丶

   けれどもわたくしはあまりにいたましいたくさんの事例から

   恐らくは風をまた森を語らせやうとして

   編輯S氏が送られた稿紙の四葉に

   わたくしはこれを誌さねばならなかった

   

   

   

   サキノハカ丶丶丶

                来る

   それは一つの送られた光線であり

   決せられた南の風である、

   諸君はこの時代に強ひられ率ひられて

   奴隷のやうに忍従することを欲するか

   むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ

   宙宇は絶えずわれらに依って変化する

   潮汐や風、

   あらゆる自然の力を用ひ尽すことから一足進んで

   諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

   

   

   

   新らしい時代のコペルニクスよ

   余りに重苦しい重力の法則から

   この銀河系統を解き放て

   

   

   新らしい時代のダーウンよ

   更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って

   銀河系空間の外にも至って

   更にも透明に深く正しい地史と

   増訂された生物学をわれらに示せ

   

 

   

   衝動のやうにさへ行はれる

   すべての農業労働を

   冷く透明な解析によって

   舞踊の範囲に高めよ

   

   素質ある諸君はたゞにこれらを刻み出すべきである

   おほよそ統計に従はゞ

   諸君のなかには少くとも百人の天才がなければならぬ

   

   

   

   新たな詩人よ

   嵐から雲から光から

   新たな透明なエネルギーを得て

   人と地球にとるべき形を暗示せよ

   

   

   新たな時代のマルクスよ

   これらの盲目な衝動から動く世界を

   素晴しく美しい構成に変へよ

   

   

   あゝ一千九百二十七年の

   諸君よ諸君はこの颯爽たる

   諸君の時代の未来圏から吹いて来る

   透明な清潔な風を感じないのか(以下空白)

   

 


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