一〇八〇

     〔栗の木花さき〕

                  一九二七、七、七、

   

   栗の木花さき

   稲田いちめん青く平らな

   イーハトーヴの七月である

       洞のやうな眼して

       風を見つめるもの……

   はんのきと萓の群落

   さわやかによしは刈られて

   今年も燃えるアイリスの花

   またわづかにひかる あざみの花

   幾重の山なみに雲たゝなびき

   月見草の花瓣萎む

       そのひとみのいろ灰いろにしてつゝましく

       短く刈られて赤いひげと

       風にやつれたおももちは

       更に二聯の

       精神作用を伴へば

       聖者の像ともなる顔である

   飯岡山の肩ひらけ

   そこから青じろい西の天うかび立つ

   

 


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