一〇七三

     鉱山駅

                  一九二七、六、一、

   

   鉱石もぬれシグナルもぬれ

   工の字ついた帽子もぬれれば

   山の青葉も坑夫のこどもの

   黒いかうもり傘もぬれる

   

   五葉山雲の往きかひ

   またなかぞらに雲の往きかひ

   あわたゞしく仕舞はれる古い宿屋の鯉のぼり

   

   峠の上のでんしんばしらもけはしい雲にひとり立ち

   その雲と桐ばたけの雨のなかから

   ぬれた二疋の裸のサラーブレッドがあらはれる

   その耳もたちその尾もゆらげば

   銅像にもなる立派なサラーブレッドである

   一人のこどもがこぶしをかため

   雨をうちまた空気をうって

   馬をおどしてはしらせる

   馬は互にたはむれて

   雲の尾行き交ふ山の尾根

   シグナルもぬれ家もぬれ