鉱山駅
一九二七、六、一、
鉱石もぬれシグナルもぬれ
工の字ついた帽子もぬれれば
山の青葉も坑夫のこどもの
黒いかうもり傘もぬれる
五葉山雲の往きかひ
またなかぞらに雲の往きかひ
あわたゞしく仕舞はれる古い宿屋の鯉のぼり
峠の上のでんしんばしらもけはしい雲にひとり立ち
その雲と桐ばたけの雨のなかから
ぬれた二疋の裸のサラーブレッドがあらはれる
その耳もたちその尾もゆらげば
銅像にもなる立派なサラーブレッドである
一人のこどもがこぶしをかため
雨をうちまた空気をうって
馬をおどしてはしらせる
馬は互にたはむれて
雲の尾行き交ふ山の尾根
シグナルもぬれ家もぬれ