〔たんぼの中の稲かぶが八列ばかり〕
一九二七、三、一六、
たんぼの中の稲かぶが八列ばかり
雪からとけて東の方へならぶのは
せんころみんながあすこの盛りを
崩して土を運んだあとになってゐる
赤い毛布を足にも巻けば
藍テンいろの影もおとした
そこに一本仕とげた仕事の紀念のやうに
新らしい杭が立ってゐる
まはりはぐみと楊の木
なあに金出す人ぁ困らなぃ人だがらと
たくましくそしてほのかにわらひながら
あいつが夜に云ってゐた
風が吹いて松並木に雪もふれば
稀薄な山と新道の松の間を
くっきり白いけむりを吐いて汽車も行く
注:本文6行目[藍テン]の[テン]は、ヘン[靑]ツクリ[定]。