〔西も東も〕

   

   西も東も

   山の脚まで雲が澱んで

   野はらへ暗い蓋をした

     ……レーキは削るぢしばり、ぢしばり、ぢしばり

       川は億千の針をながす……

   川上にやっと一きれ白い天末

   そのこっちでは

   広告に大きくこさえた

   練瓦会社の煙突が 幾日ぶりかで

   黒い煙を吐いてゐる

     ……ぢしばりもいま、

       やっぱり冬にはいらうとして

       緑や苹果青(あを)や紅、紫、

       あらゆる色彩を支度する

       それをがりがり削いてとる……

   もずが一むれ溯ってくる

   矢羽をそらでたゝいてゐて

   足ぶみをするやうなのは

   岸の小松か何かの中へ

   おりたいとでもいふのだらう

       (たゞ済まないと思ふばかり

        どうしてもう恨むことなどございませう)

   練瓦会社の煙突から

   黒いけむりがのぼって行って

   しづかに雨の雲にまぶれる

   

 


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