一〇五九

     開墾地検察

                  一九二七、五、九、

   

   ……墓地がすっかり変ったなあ……

   ……なあにそれすっかり整理したもんでがす……

   ……ここに巨きなしだれ桜があったがねえ……

   ……なあにそれ

     青年団総出でやったもんでがす

     観音さんも潰されあした……

   ……としよりたちが負けたんだねえ……

   ……なあに総一ぁたった一人できかなぐなって

     それで誰(だ)っても負げるんでがんす……

   ……苗圃のあともずゐぶんひどく荒れたねえ……

   ……なあにそれ

     お上でうんと肥料したづんで

     これで六年無肥料でがす……

   ……あちこち茶いろにぶちだしてゐる……

   ……はあ、

     苹果の枝 兎に食はれあした

     桜んぼの方は食ひあせんで

     桃もやっぱり食はれあした……

   ……兎はとらなけあいけないよ

     それでも兎の食はない種類といふんなら

     花には薔薇につつじかな

     果樹ではやっぱり梅だらう……

   ……桜んぼの方は食ひませんで

     苹果と桃をたべたので……

   ……そらそら

     その苹果の樹の幽霊だらう

     その谷そこに突ったって

     いっぱい花をつけてるやつは……

   ……はあ……

   ……針金製の鉄索か

     この崖下で切り出すんだな……

   ……はあ 鉛の丸五の仕事でがあす……

   ……そんなにこれが売れるかねえ……

   ……はあ

     耐火性だって云って売ってます……

   ……耐火性さなこの石は

     あれだな開墾地は……

   ……はあ

     上流の橋渡って参りあす……

   

 


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