一〇三九

     休息

                  一九二七、四、一八、

   

   午前の仕事のなかばを充たし

   わたくしは旅程を了へたヂプシイのやうに

   かつぎを風になぶらせながら

   ベムベロの咲く

   浅葱いろした春の川にねころばう

     かれ草と影

     鳥は矢羽根のかたちに滑り

   スノードンの峯は春になってから

   二度雪が消えて二度雪が降り

   いまあはあはと土耳古玉のそらにかすんでゐる

     アスティルベの芽に

     ちいさな電弧がもう点くころだ

   その峯に翔ける

   うるんだ白い雲のかたまりに

   俸給生活者(サラー)に属するそのうつくしい女(ひと)の考へが

   なにかぼんやり映ってゐる

 

   顫へて鳴るのは

   枯草だらうか

 

   響尾蛇でなくても

   蛇はみなよくその尾を鳴らす

   

 


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