一九二七、三、二三、
バケツがのぼって
鉛いろしたゴーシュ四辺形の影のなかから
いまうららかな波をたゝえて
ひざしのなかにでてくると
そこに -ひとひら-
-なまめかしい貝-
-ヘリクリサムの花冠……
一ぴきの蛾が落ちてゐる
滑らかに強い水の表面張力から
四枚の翅を離さうとして
蛾はいっしんにもがいてゐる
-またたくさんの小さな気泡……
わたくしはこの早い春への突進者
鱗翅の群の急尖鋒を
温んでひかる気海のなかへ
再び発足させねばならぬ
ほう 早くも小さな水けむり
鱗粉気泡イリデスセンス
春の蛾は
ひとりで水を叩きつけて
飛び立つ
飛び立つ
飛びたつ
もういま杉の茶いろな房と
不定形な雲の間を航行する