一〇一二

     〔甲助 今朝まだくらぁに〕

                  一九二七、三、二一、

   

   甲助

   今朝まだくらぁに、

   たった一人で綱取さ稼ぐさ行ったでぁ

     ……赤楊にはみんな氷華がついて

       野原はうらうら白い偏光……

   唐獅子いろの乗馬ずぼんはぃでさ

   新らし紺の風呂敷しょってさ

   親方みだぃ手ぶらぶらど振って行ったでぁ

     ……雪に点々けぶるのは

       三つ沢山の松のむら……

   清水野がら大曲野がら後藤野ど

   一人で威張って歩って

   大股に行くうぢはいがべぁ

   向ふさ着げば撰鉱だがな運搬だがな

   夜でば小屋の隅こさちょこっと寝せらへで

   たゞの雑役人夫だがらな

     ……江釣子森が

       ぼうぼうと湯気をあげて

       氷醋酸の塊りのやう……

   あらがだ後藤野さかがったころだ

   

 


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