〔甲助 今朝まだくらぁに〕
一九二七、三、二一、
甲助
今朝まだくらぁに、
たった一人で綱取さ稼ぐさ行ったでぁ
……赤楊にはみんな氷華がついて
野原はうらうら白い偏光……
唐獅子いろの乗馬ずぼんはぃでさ
新らし紺の風呂敷しょってさ
親方みだぃ手ぶらぶらど振って行ったでぁ
……雪に点々けぶるのは
三つ沢山の松のむら……
清水野がら大曲野がら後藤野ど
一人で威張って歩って
大股に行くうぢはいがべぁ
向ふさ着げば撰鉱だがな運搬だがな
夜でば小屋の隅こさちょこっと寝せらへで
たゞの雑役人夫だがらな
……江釣子森が
ぼうぼうと湯気をあげて
氷醋酸の塊りのやう……
あらがだ後藤野さかがったころだ