一〇〇五

     〔鈍い月あかりの雪の上に〕

                  一九二七、三、一五、

   

   鈍い月あかりの雪の上に

   松並の影がひろがってゐる

   ひるなら碧く

   いまも螺鈿のモザイク風した影である

   こんな巨きな松の枝さへ落ちてゐる

   このごろのあの雨雪で折れたのだ

   そこはたしかに畑の雪が溶けてゐる

   玉葱と ペントステモン 行ってみやう

   ほう ちゃうどあの十六の歳の

   岩手山の裾野の風のきもちだ

   なにかふしぎなからくさ模様が

   苗床いちめんついてゐる

     プリンス フルウピンが云ふ

     「いちばんいゝ透明な絵具をもう呉れてしまはう」

   川が鼠いろのそらと同じで

   音なく南へ滑って行けば

   あゝ その東は縮れた風や五輪峠や

   泣きだしたいやうな甘ったるい雲だ

     松は昆布とアルコール

     まだらな草地はねむさを噴く

   早池峰はもやの向ふにねむり

   ずうっとみなかみの

   すきとほって暗い風のなかを

   川千鳥が啼いて溯ってゐる

   町の偏光の方では犬の声

     水晶の笛とガラスの笛との音色の差異を図示せよ

   風がいまつめたいアイアンビックにかはる

   

 


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