〔プラットフォームは眩ゆくさむく〕
一九二七、二、一二、
プラットフォームは眩ゆくさむく
緑に塗られたシグナルや
きららかに飛ぶ氷華のなかを
あゝ狷介に学士は老いて
いまは大都の名だたる国手
昔の友を送るのです
……そのきらゝかな氷華のはてで
小さな布の行嚢や
魚の包みがおろされますと
笛はおぼろにけむりはながれ
学士の影もうしろに消えて
しづかに鎖すその窓は
鉛のいろの氷晶です
かがやいて立つ氷の樹
蒼々けぶる山と雲
一つら過ぎゆく町のはづれに
日照はいましづかな冬で
車室はあえかなガラスのにほひ
髪をみだし黒いネクタイをつけて
朝の光にねむる写真師
東の窓はちいさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル効果
客はつましく座席をかへて
双手に二月のパネルをひらく
しづかに東の窓にうつり
いちゐの囲み池をそなへた小さな医院
その陶標の門をば斜め
客は至誠を面にうかべ
体を屈して殊遇を謝せば
桑にも梨にもいっぱいの氷華