七四二

     圃道

                  一九二六、一〇、一〇、

   

   水霜が

   みちの草穂にいっぱいで

   車輪もきれいに洗はれた

   

   ざんざんざんざん木も藪も鳴ってゐるのは

   その重いつめたい雫が

   いま落ちてゐる最中なのだ

   

   霧が巨きな塊(こゞり)になって

   太陽面を流れてゐる

   さっき川から炎のやうにあがってゐた

   あのすさまじい湯気のあとだ

   

   気管がひどくぜいぜい云ふ

   かういふぜいぜい鳴る胸へ

   焼酎をすこし呑みたいと思ひ

   ふかした芋をたべたいと思ひ

   町に心を残しながら

   野菜を売った年老りたちが

   みなこの坂を帰ったのだ

   

 


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