一九二六、六、二〇、
粗朶でさゝえた稲の穂を
何かなし立ちよってさわり
か白い風にふり向けば
あちこち暗い家ぐねの杜と
黒雲に映える雨の稲
そっちはさっきするどく斜視し
あるひは嘲けりことばを避けた
陰気な散点部落なのに
なほもおろかにわたくしの胸の鳴るのはどういふわけだ
このうへそこに何の期待があるのだらう
それが一つの形になって
もう一度立て直すことにもなるよりは
倒れて傷んだ稲の穂を
とり戻すのを望むのだらう
むしろそれこそ
今朝なほ稲の耐えてゐた間
いだいたのぞみのかすかな暈滃と
わづかに白くひらけてひかる東のそらが
互に溶けてはたらくためだ
野原のはてで荷馬車は小く
ひとはほそぼそ尖ってけむる