七一五

                  一九二六、六、二〇、

   

   粗朶でさゝえた稲の穂を

   何かなし立ちよってさわり

   か白い風にふり向けば

   あちこち暗い家ぐねの杜と

   黒雲に映える雨の稲

   そっちはさっきするどく斜視し

   あるひは嘲けりことばを避けた

   陰気な散点部落なのに

   なほもおろかにわたくしの胸の鳴るのはどういふわけだ

   このうへそこに何の期待があるのだらう

   それが一つの形になって

   もう一度立て直すことにもなるよりは

   倒れて傷んだ稲の穂を

   とり戻すのを望むのだらう

   むしろそれこそ

   今朝なほ稲の耐えてゐた間

   いだいたのぞみのかすかな暈滃と

   わづかに白くひらけてひかる東のそらが

   互に溶けてはたらくためだ

   野原のはてで荷馬車は小く

   ひとはほそぼそ尖ってけむる

 

 


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