七一一

     水汲み

                  一九二六、五、一五、

   

   ぎっしり生えたち萓の芽だ

   紅くひかって

   仲間同志に影をおとし

   上をあるけば距離のしれない敷物のやうに

   うるうるひろがるち萓の芽だ

      ……水を汲んで砂へかけて……

   つめたい風の海蛇が

   もう幾脈も幾脈も

   野ばらの藪をすり抜けて

   川をななめに溯って行く

      ……水を汲んで砂へかけて……

   向ふ岸には

   蒼い衣のヨハネが下りて

   すぎなの胞子(たね)をあつめてゐる

      ……水を汲んで砂へかけて……

   岸までくれば

   またあたらしいサーペント

      ……水を汲んで水を汲んで……

   遠くの雲が幾ローフかの

   麺麭にかはって売られるころだ

 

 


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