水汲み
一九二六、五、一五、
ぎっしり生えたち萓の芽だ
紅くひかって
仲間同志に影をおとし
上をあるけば距離のしれない敷物のやうに
うるうるひろがるち萓の芽だ
……水を汲んで砂へかけて……
つめたい風の海蛇が
もう幾脈も幾脈も
野ばらの藪をすり抜けて
川をななめに溯って行く
……水を汲んで砂へかけて……
向ふ岸には
蒼い衣のヨハネが下りて
すぎなの胞子(たね)をあつめてゐる
……水を汲んで砂へかけて……
岸までくれば
またあたらしいサーペント
……水を汲んで水を汲んで……
遠くの雲が幾ローフかの
麺麭にかはって売られるころだ