あけがたになり

　　　風のモナドがひしめき

　　　高地もけむりだしたので

　　　月は崇厳なパンの実に凍って

　　　はなやかな錫いろのそらにかゝれば

　　　西ぞらの白い横雲の上には

　　　泯びた古い山彙の像が

　　　鼠いろしてねむたくうかぶ

　　　いまはかすかなけむりとも

　　　見やうとおもった盛岡が

　　　わづかにうねる前丘の縁(へり)

　　　つめたいあかつきのかげらふのなかに

　　　青く巨きくひろがって

　　　アークライトの点綴や

　　　町なみの氷燈の列

　　　馥郁としてねむってゐる

　　　まことにこゝらのなほ雪を置くさびしい朝

　　　わたくしは三箇褐色の潅木の実をとって

　　　そらなる普香天子にさゝげ

　　　西天山の形の雲を

　　　古いシュワリック山彙とたはむれ

　　　転じて南方はてない氛気

　　　若い岩手の北上平野をのぞんで

　　　かはらぬ愛をそこにちかへば

　　　ふたたび老いる北上川は

　　　あるかなしかに青じろくわたる天の香気を

　　　片面に受けて滑って行く

　　　　　　汒びる最后の極楽鳥が

　　　　　　尾羽をひろげて息づくやうに

　　　　　　町は耿々よあけをねむる

　　　やぶうぐひすがなきはじめ

　　　なきはじめてはしきりになき