滝は黄に変り

   りうりうと弧度を増す

   雲はむじな色であって

   谷の側壁に沿って滑り下りれば

   上の方からいたやの脚がどんどん消える

   それがこゝだけ

   ちゃうど直径一米

   雲を堀り下げた石油井戸ともいふ風に

   ひどく明るくて玲瓏として

   雫にぬれたしらねあふひやぜんまいや

   いろいろの葉が青びかりして

   風にぶるぶるふるえてゐる

   早くもぴしやっと稲光り

   立派に青じろい大静脉のかたちである

   けれどもあとはしんとくらくて

   滝が向ふで鳴るばかり

   早く走って下りないと

   下流でわたって行けなくなってしまひさう

   もう鳴りだした

   そこらのごろごろ黒い岩が

   みんなびりびりふるひだす

   それをよくまあ

   こゝらの谷いっぱいのいたやの木が

   ぽたりと雫をおとしたり

   じっと立ったりしてゐるもんだ

   もっともさういふいたやの下は

   みな黒緑の犬榧で

   それに渓中申し分ないいゝ石ばかり

   何たる巧者な漢画的装景だらう

   もっとこゝらでかんかんとして

   山気なり嵐気なり吸ってゐたいのであるが

   またもやこんなに

   うすむらさきにべにいろなのを

   まっかうから叩きつけて

   ぼくを追ひだすわけなのだ

 

 


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