三六六

     鉱染とネクタイ

                  一九二五、七、一九、

   

   蠍の赤眼が南中し

   くわがたむしがうなって行って

   房や星雲の附属した

   青じろい浄瓶星座がでてくると

   そらは立派な古代意慾の曼陀羅になる

     ……峡いっぱいに蛙がすだく……

        (こゝらのまっくろな蛇紋岩には

         イリドスミンがはいってゐる)

   ところがどうして

   空いちめんがイリドスミンの鉱染だ

   世界ぜんたいもうどうしても

   あいつが要ると考へだすと

     ……虹のいろした野風呂の火……

   南はきれいな夜の飾窓(ショーウヰンドウ)

   蠍はひとつのまっ逆さまに吊るされた、

   夏ネクタイの広告で

   落ちるかとれるか

   とにかくそいつがかはってくる

   赤眼はくらいネクタイピンだ

 

 


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