二五八

     渇水と座禅

                  一九二五、六、一二、

   

   にごって泡だつ苗代の水に

   一ぴきのぶりき色した鷺の影が

   ぼんやりとして移行しながら

   夜どほしの蛙の声のまま

   ねむくわびしい朝間になった

   さうして今日も雨はふらず

   みんなはあっちにもこっちにも

   植えたばかりの田のくろを

   じっとうごかず座ってゐて

   めいめい同じ公案を

   これで二昼夜商量する

      青くらがりの樺の下

      出羽三山の碑をしょって

      水下ひと目に見渡しながら

      いたづめ樋(どひ)をまもるのは

      自働車ポムプの堅田の臼

   わづかな雲の縞が冴え

   一列西の岩鐘の青

 

 


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