三五〇

     

                  一九二五、六、八、

   

   おれのいまのやすみのあひだに

   Chitin の硬い棒を頭でふりまはしたり

   口器の斧を鳴らしたりおれの古びた春着のひだや

   しゃっぽにのぼった漆づくりの昆虫ども

   山地のひなたの熊蟻どもはみなおりろ

   下りないともう途方もなくひどいところへ連れてくぞ

     ……落ちろ!……

   もちろんどこまで行ったって

   つやつやひかるアネモネの旈は

   青ぞらに白くながれやうし

   すゞらんのにほひをはこぶつめたい風もあるにはあらう

   葡萄酒いろした巨きな花の蜜槽も

   それでも何かそこらあたりのでこぼこや

   しめり工合がちがってゐて

   おまけに巣もなく知り合ひもない

   その恐ろしい広い世界の遠くの方へ

   行きたくないものはみんな落ちろ

     ……落ちろ

       そんな細い黒い脚を折るまいと

       どんなにおれは苦をすることか

       ひとりで落ちろ……

   どいつもこいつも

   馬の尾っぽみたいに赤茶けたやつらだ

 

 


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