蟻
一九二五、六、八、
おれのいまのやすみのあひだに
Chitin の硬い棒を頭でふりまはしたり
口器の斧を鳴らしたりおれの古びた春着のひだや
しゃっぽにのぼった漆づくりの昆虫ども
山地のひなたの熊蟻どもはみなおりろ
下りないともう途方もなくひどいところへ連れてくぞ
……落ちろ!……
もちろんどこまで行ったって
つやつやひかるアネモネの旈は
青ぞらに白くながれやうし
すゞらんのにほひをはこぶつめたい風もあるにはあらう
葡萄酒いろした巨きな花の蜜槽も
それでも何かそこらあたりのでこぼこや
しめり工合がちがってゐて
おまけに巣もなく知り合ひもない
その恐ろしい広い世界の遠くの方へ
行きたくないものはみんな落ちろ
……落ちろ
そんな細い黒い脚を折るまいと
どんなにおれは苦をすることか
ひとりで落ちろ……
どいつもこいつも
馬の尾っぽみたいに赤茶けたやつらだ