一九二五、五、一〇、
つめたい風はそらで吹き
月のかけらの銀斜子
黒黒そよぐ松の針
繞って鳴らす鳥の群
(時間の軸を灰いろの錫の光とします
見給へここに地質時代の各紀の爬虫が集ってゐる
その各々がじぶんの祖先の血をたべたいとひしめいてゐる)
なんといふことだ
遁げやう遁げやう
さはしぎは二羽
わたくしが眼をさましてみれば
ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で
雪ものぞけば
銀斜子の月も凍って
さはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる
しかもこの風の底の
しづかな月夜のかれくさは
みなニッケルのあまるがむで
あちこち風致よくならぶものは
みなうつくしいりんごの木だ
そんな木立のはるかなはてでは
ガラスの鳥も軋ってゐる
さはしぎは北のでこぼこの地平線でもなき
わたくしは寒さにがたがたふるえる
氷雨が降ってゐるのではない
かしはがかれはを鳴らすのだ