三三五

                  一九二五、五、一〇、

   

   つめたい風はそらで吹き

   月のかけらの銀斜子

   黒黒そよぐ松の針

   繞って鳴らす鳥の群

      (時間の軸を灰いろの錫の光とします

       見給へここに地質時代の各紀の爬虫が集ってゐる

       その各々がじぶんの祖先の血をたべたいとひしめいてゐる)

     なんといふことだ

     遁げやう遁げやう

    さはしぎは二羽

   わたくしが眼をさましてみれば

   ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で

   雪ものぞけば

   銀斜子の月も凍って

   さはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる

     しかもこの風の底の

     しづかな月夜のかれくさは

     みなニッケルのあまるがむで

     あちこち風致よくならぶものは

     みなうつくしいりんごの木だ

     そんな木立のはるかなはてでは

     ガラスの鳥も軋ってゐる

   さはしぎは北のでこぼこの地平線でもなき

   わたくしは寒さにがたがたふるえる

     氷雨が降ってゐるのではない

     かしはがかれはを鳴らすのだ

 

 


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