一九二五、五、七、
風はやはらかなチモシイを吹くし
あんまりいゝとこへ来たもんだし
約十五分間分れとかなんとか
中尉どのがやってしまったもんだから
もう生徒らは手に負へない
蜜蜂といったいどっちだ
そこに一本古ぼけたレントゲンの木が
枝にぶつぶつ硫黄の粉を噴いてゐる
幾層暗むその梢で
日はかゞやかに分劃する
向ふはリチウムの焔をあげる花樹の群
また青々と風に消えるから松の列
それから例の
大斧劈皺を示してかすむ死火山の雪だ
羊舎を出て来た生徒らが
羊の眼(まなこ)が蛍のやうに光ってゐたとおどろいてゐる
遠くに行ってた生徒らは
緑青いろに光ってゐる
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃などうってゐる
こんどは鶯がセセッション式に啼いたので
歩兵少尉がしかつめらしく手をかざす
そら大へんだ
誰か電線に石を投げた
羊舎からは
顔に沢山針をさしたやうな犬が出て来るし
井戸では紺の滑車も軋り
蜜蜂ばかり歓語の網を織りつゞける