三二七

     清明どきの駅長

                   一九二五、四、二一、

   

   こごりになった古いひばだの

   盛りあがった松ばやしだの

   いちどにさあっと青くかはる

   かういふ清明どきはです

   線路の砂利から紅い練瓦のラムプ小屋から

   いぢけて倭(ひく)い防雪林の杉並あたり

   ぎらぎらひかるかげらふが

   雪でたまった沼気や酸を

   せはしくせわしく掃くのです

     ……手袋はやぶけ

       肺臓はロヂウムから代填される……

   六列展く春のグランド電柱に

   青くわななく金属線が渡されて

   碍子もみんなごろごろ鳴れば

   馬はそいつを蜂かと思ひ

   汽車は触媒の白金を噴いて

   線路に沿った黄色な草地のリボンを燃やし

   ことしの禾草に加里と燐とをやりながら

   なかを走って来るのです

 

 


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