風と木
一九二五、四、二〇、
西風が吹き西風が吹き
青い鉛筆にも風が吹き
かへりみられず棄てられた戯曲の憤懣にも風が吹き
風が吹き風が吹き
はんの木の房踊る踊る
偏光! 斜方錐! トランペット!
はんの木の花踊る踊る
西風が吹き西風が吹き
残りの雪にも風が吹き
猫の眼をした
おとなしい 神学士にも風が吹き
はんの木の花おどるおどる
(塩をたくさんたべ
水をたくさん呑み
塩をたくさんたべ
水をたくさん呑み……)
東は青いシガーのけむり
つづけてのぼるのろしの雲や
また風が吹き風が吹き
えだいちめんにゆすぶるゆすぶる褐の房
巻雲は天の焦点を過ぎ
三つ残った黒い毬果を
また風が吹き西風が吹き出し
西風が吹き
はんの雄花はこんどはしばらく振子になる