五一九

     

                  一九二五、四、一二、

   

   烈しいかげらふの波のなかを、

   紺の麻着た肩はゞひろいわかものが

   何かゆっくりはぎしりをして行きすぎる、

   どこかの愉快な通商国へ

   挨拶をしに出掛けるとでもいふ風だ

      ……あをあを燃える山の雪……

   かれくさもゆれ笹もゆれ

   こんがらかった遠くの桑のはたけでは

   煙の青い lento もながれ

   崖の上ではこどもの凧の尾もひかる

      ……ひばりの声の遠いのは

        そいつがみんな

        かげらふの行く高いところで啼くためだ……

   ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっはぎしりをして

   ひとは林にはいって行く

 

 


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