五一五

     朝餐

                  一九二五、四、五、

   

   苔に座ってたべてると

   麦粉と塩でこしらえた

   このまっ白な鋳物の盤の

   何と立派でおいしいことよ

   裏にはみんな曲った松を浮き出して、

   表は点の括り字で「大」といふ字を鋳出してある

   この大の字はこのせんべいが大きいといふ広告なのか

   あの人の名を大蔵とでも云ふのだらうか

   さうでなければどこかで買った古型だらう

   たしかびっこをひいてゐた

   発破で足をけがしたために

   生れた村の入口で

   せんべいなどを焼いてくらすといふこともある

   白銅一つごくていねいに受けとって

   がさがさこれを数へてゐたら

   赤髪のこどもがそばから一枚くれといふ

   人は腹ではくつくつわらひ

   顔はしかめてやぶけたやつを見附けてやった

   林は西のつめたい風の朝

   頭の上にも曲った松がにょきにょき立って

   白い小麦のこのパンケーキのおいしさよ

   競馬の馬がほうれん草を食ふやうに

   アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに

   すきとほった風といっしょにむさぼりたべる

   こんなのをこそ speisen とし云ふべきだ

      ……雲はまばゆく奔騰し

        野原の遠くで雷が鳴る……

   林のバルサムの匂を呑み

   あたらしいあさひの蜜にすかして

   わたくしはこの終りの白い大の字を食ふ

 

 


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