五〇四

     天球図

                  一九二五、四、二、

   

   黄いろに澱む春の天球を

   幾琉の黒雲乱れて流れ

   積まれて酸える枕木や

   あわただしい植民小屋の屋根の上に

   鳥は矢羽のかたちをなしてひるがへり

      ……風と羽とのそのほのじろい love-bite……

   おしまひのしめった古金の二きれを残して

   陽は山脉の上のつめたい巻層雲に陥ち

   そのつつましい恋びとのことを考へながら

   小さな汽車は暮れかゝる古生山地に出発する

      ……村農ソークラテースのごとくに面皺み……

   いよよ潜まるアラゴナイトの天椀を

   いくむらよぎる黒雲の列

 

 


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