四一五

     魚舗

                  一九二五、二、一五、

   

   まづは首尾よく家鴨を締めて

   萌黄いろしたその頸を

   きれいに撫でて軒に釣り

   両手を組んでごちっと鳴らし

   店を一ぺん目測し

   台のはじから手かぎをとって

   あかをと鱈を置き直し 

   わかめの束を重ねれば

   つるした家鴨はぶらぶらゆすれ

   土間では鮫の黒肉(み)が凍る

   もんぱ帽子に絣の合羽

   ……(帰命頂礼地蔵尊)

   鈴を鳴らしたにせ巡礼に

   五厘やらうと五厘をさがし

   一銭やって追ひ払ひ

   やっと火鉢に戻って来れば

   吹雪が飛んで吹雪が飛んで

   つるした家鴨ははげしくうごき

   鮫の黒肉(み)もあかをも凍る

 

 


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