四〇九

     

                  一九二五、二、五、

   

   がらにもない商略なんぞたてやうとしたから

   そんな嫌人症(ミザンスロピー)にとっつかまったんだ

     ……とんとん叩いてゐやがるな……

   なんだい あんな 二つぼつんと赤い火は

     ……山地はしづかに収斂し

       凍えてくらい月のあかりや雲……

   八時の電車がきれいなあかりをいっぱいのせて

   防雪林のてまへの橋をわたってくる

     ……あゝあ 風のなかへ消えてしまひたい……

   蒼ざめた冬の層積雲が

   ひがしへひがしへ畳んで行く

     ……とんとん叩いてゐやがるな……

   世紀末風のぼんやり青い氷霧だの

   こんもり暗い松山だのか

     ……ベルが鳴ってるよう……

   向日葵の花のかはりに

   電燈が三つ咲いてみたり

   灌漑水(みづ)や肥料の不足な分で

   温泉町ができてみたりだ

     ……ムーンディーアサンディーアだい……

   巨きな雲の欠刻

     ……いっぱいにあかりを載せて電車がくる……

 

 


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