今日もしやうがないな、

   また、

   湖みたいな砂漠みたいな低い霧だ、

   あんなに白くひかるのは

   よほどその粒も巨きい

   風がなく

   雪にかんかん日がてって

   それから少し気温がさがるとできる

   青ぞらばかりつるつるひかって

   窓から下はたゞいちめんの

   白くひかったのっぺらぼうだ

   泉沢だの藤原だの

   太田の方へ帰る連中は

   昇降口から

   みんなぽかっと中へ沈んでしまったらしい

   ちゃうどおあつらいといふやうに

   声だけがやがやどてを向ふへまはって行く

   どての向ふはにはとこ藪も

   つるうめもどきの石藪も

   小さな島にうかんでゐるし

   正門の横のアカシヤ列は

   茶いろな莢をたくさんつけて

   蜃気楼みたいに脚をぼんやり生えてゐる

   なんだい泉沢なんどが

   正門の前を通りながら

   先生さよならなんといふ

   先生さよならなんていふと

   まるでこっちはタイタニックの甲板に

   残った船客みたいな気持、

   ぜんたい向ふからはこっちが見えるんだな

   これはむしろ進度表などいゝかげんにして

   われわれもあの霧の中をあるいて

   充分探検しないといけないな

 

 


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