心象スケッチ

     昇冪銀盤

            宮 澤 賢 治

 

   寅吉(トラキチ)山の北のなだらで

   雪がまばゆい銀盤になり

   山稜の藍いろの木の昇羃列が

   そこに立派な影をうつし

   またふもとでは

   枝打ちされた緑褐色の松並が

   弧(アーク)になってうかんでゐる

   

   恍とした佇立のうちに

   雲はばしゃばしゃ飛び

   風は

   中世騎士風の道徳をはこんでゐた

 

 


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