四〇七

     森林軌道

                  一九二五、一、二五、

   

   岩手火山が巨きな氷霧の套をつけて

   そのいたゞきを陰気な亜鉛の粉にうづめ

   裾に岱赭の落葉松の方林を

   林道白く連結すれば

   そこから寒い負性の雪が

   小松の黒い金米糖を

   野原いちめん散点する

      ……川の音から風の音から

        とろがかすかにひびいてくる……

   南はうるむ雪ぐもを

   盛岡の市は沈んで見えず

   三つ森山の西半分に

   雑木がぼうとくすぶって

   のこりは鈍いぶりきいろ

      ……鎔岩流の刻みの上に

        二つの鬼語が横行する……

   いきなり一すじ

   吹雪(フキ)が螺旋に舞ひあがり

   続いて一すじまた立てば

   いまはもう野はら一ぱい

   あっちもこっちも

   空気に孔があいたやう

   巌稜も湯気を噴く噴く

      ……四番のとろは

        崖のあたりでひどく難儀をしてゐるらしく

        音も遠くへ行ったやう……

   一つの雲の欠け目から

   白い光が斜めに射し

   山は灰より巨きくて

   林もはんぶんけむりのなかに陥ちる

      ……鳥はさっきから一生けん命

        吹雪の柱を縫ひながら

        風の高みに叫んでゐた……

 

 


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