四〇一

     氷質の冗談

                  一九二五、一、一八、

   

   職員諸兄 学校がもうサマルカンドに移ってますぞ

   杉の林がペルシャなつめに変ってしまひ

   花壇も藪もはたけもみんな喪くなって

   そこらはいちめん氷凍された砂けむりです

   白淵先生 北緯三十九度あたりまで

   アラビヤ魔神がはたらくことになったのに

   大本山からなんにもお振れがなかったですか

   さっきわれわれが教室から帰りましたときは

   そこらは賑やかな空気の祭といふふうに

   ねむや鵝(数文字不明)降ってゐました

   それがいま(以下不明)

   (一行不明)

   ぎらぎらひかって澱んだのです

   えゝ さうなんです

   もしわたくしが管長ならば

   こんなときこそ布教使がたを

   みんな巨きな駱駝に載せて

   あのほのじろく甘い氷霧のイリデセンスのなかに

   もうどこまでも出してやります

   そんな沙漠の漂ふ大きな虚像のなかを

   あるひはひとり

   あるひは兵士や隊商たちの仲間に入れて

   熱く息づくらくだのせなの革嚢に

   氷のコロナと世界の痛苦を一杯につめ

   極地の海に沈めることを命じます

   そしたらたぶんそれは強力なイリドスミンの竜に変って

   世界一ぱいはげしい雹を降らすでせう

   そのときわたくし管長は

   東京の大本山の玻璃台で

   童子に香と百合の花とを捧げさせ

   空を仰いでごくおもむろに

   竜をなだめる二行の迦陀を作ります

   新聞記者がやってきた

 

 


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