一九二四、一〇、二九、
卑しくひかる乱雲が
ときどき凍った雨をおとし、
野原は寒くあかるくて、
穂のない粟の塚も消される
人はさびしく海藻を着て、
煮られた塩の魚をおもひ、
鷹は鉛の鱗をつけて、
耿々として野をよぎる
西は渦まく風の底、奥羽竜骨山脈の
紅くたゞれた彫鏤の面を
一つの雲の巨きな影が
つまづきながら南へすべる
毬をかかげた二本杉
七庚申の石の塚
たちまち山の襞いちめんに
水と霧の火があがり
江釣子森の松むらばかり
黒々として沈んでしまふ
←前の草稿形態へ
次の草稿形態へ→