三一一

     昏い秋

                  一九二四、一〇、四、

   

   雲の鎖のむら立ちや

   また木醋を宙に充てたり

   はかない悔いのいろを湛えたりするとき

   一つの森が風のなかにけむりを吐けば

   そんなつめたい白い火(ほ)むらは

   北いっぱいに飛んでゐる

   わびしい秋も終りになって

   楊は堅いブリキにかはり

   たいていの濶葉樹のへりも

   酸っぱい雨に黄いろにされる

   じつに避難でもするつもりなのか

   群になったり大きなやつは一疋づつ

   鳥はせわしく南へ渡り

   ひとは幽霊写真のやうに

   白いうつぼの稲田に立って

   ただぼんやりと風を見送る

 

 


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