三〇九

     〔南のはてが〕

                  一九二四、一〇、二、

   

   南のはてが

   灰いろをしてひかってゐる

   ちぎれた雲のあひだから

   そらと川とがしばらく闇に映(は)え合ふのだ

   そこから岸の林をふくみ

   川面いっぱいの夜を孕んで

   風がいっさん溯ってくる

   ああまっ甲におれをうつ

   ……ちぎれた冬の外套を

     翼手のやうにひるがへす……

       (われ陀羅尼珠を失ふとき

        落魄ひとしく迫り来りぬ)

   風がふたゝびのぼってくる

   こはれかかったらんかんを

   嘲るやうにがたがた鳴らす

   ……どんなにおまへが潔癖らしい顔をしても

     翼手をもった肖像は

     もう乾板にはいってゐると……

       (人も世間もどうとも云へ

        おれはおまへの行く方角で

        あらたな仕事を見つけるのだ)

      風がまた来れば

   一瞬白い水あかり

       (待ておまへはアルモン黒(ブラック)だな)

   乱れた鉛の雲の間に

   ひどく傷んで月の死骸があらはれる

   それはあるひは風に膨れた大きな白い星だらう

   烏が軋り

   雨はじめじめ落ちてくる

 

 


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