〔南のはてが〕
一九二四、一〇、二、
南のはてが
灰いろをしてひかってゐる
ちぎれた雲のあひだから
そらと川とがしばらく闇に映(は)え合ふのだ
そこから岸の林をふくみ
川面いっぱいの夜を孕んで
風がいっさん溯ってくる
ああまっ甲におれをうつ
……ちぎれた冬の外套を
翼手のやうにひるがへす……
(われ陀羅尼珠を失ふとき
落魄ひとしく迫り来りぬ)
風がふたゝびのぼってくる
こはれかかったらんかんを
嘲るやうにがたがた鳴らす
……どんなにおまへが潔癖らしい顔をしても
翼手をもった肖像は
もう乾板にはいってゐると……
(人も世間もどうとも云へ
おれはおまへの行く方角で
あらたな仕事を見つけるのだ)
風がまた来れば
一瞬白い水あかり
(待ておまへはアルモン黒(ブラック)だな)
乱れた鉛の雲の間に
ひどく傷んで月の死骸があらはれる
それはあるひは風に膨れた大きな白い星だらう
烏が軋り
雨はじめじめ落ちてくる