三〇七

     穂のない粟をとりいれる人

                  一九二四、九、二七、

   

   途方にくれて粟のはたけのなかにたち

   またしかたなく藁をいっぽん抜きとって

   西日から古めかしくもすかし出される

   穂のない粟を束ねだすひと

   こどもらは向ふでわらひ

   女たちは一生けん命古金のはたけに出入(いり)する

      ……向ふはいちめん

        すすきの花のまっしろな火だ……

   繰るやうにたぐるやうに刈って行く

   黝んで濁った赤い粟の稈

      ……まばゆく燃える萱の穂や

        ちゞれて傷む西の雲

        緑びろうどの山の皺……

   濁って赤い花青素(アントケアン)の粟ばたで

   ひとは、、、、にはたらいてゐる

    《 かべ いい いい い

      なら いい いい い》

      ……あんまり萓穂がまばゆいので

        こどもらまでがさわぎだす……

   かもがやや風にゆすれる蓼の花

   はたけのへりでは麻も油緑の夕陽に燃える

      ……女たちは馬のはなしをしてゐるのだ……

    《 デデッポッポ

      デデッポッポ》

      ……こっちでべつのこどもらが

        みちに板を持ちだしてあそびながらうたってゐる……

   はたけの方のこどもらは

   もう風や夕陽の遠くへ行ってしまった

 

 


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