心象スケツチ

     秋と負債

            宮 澤 賢 治

   

   半穹二グロスからの電燈が

   おもひおもひの焦点(フオカス)をむすび

   はしらの陰影(かげ)を地に落し

   濃淡な夜の輻射をつくる

     ……またあま雲の螺鈿からくる青びかり……

   ポランの広場の夏の祭の負債から

   わたくしはしかたなくこゝにとゞまり直立するけれども

   これら二つのつめたい光の交叉のほかに

   もひとつ見えない第三種の照射があって

   そこのなめらかな白雲石(ドロミツト)の床に

   わたくしの影を花盞のかたちに投げてゐる

   考へるほどそれがいよいよ皎(あきら)かなので

   もうわたくしはあんな Sottige (ソツテイーゲー)な灰いろのけだものを

   二度とおもひだす要もない

 

 


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