一九一

     風と杉

                  一九二四、九、六、

   

   杉のいちいちの緑褐の房に

   まばゆい白い空がかぶさり

   蜂(すがる)は熱いまぶたをうなり

   風が吹けば白い建物

     ……一つの汽笛の Cork-screw ……

   銀や痛みやさびしく口をつぐむひと

     ……それはわたしのやうでもある

       白金の毛あるこのけだもののまばゆい焦点……

   半分溶けては雀が通り

   思ひ出しては風が吹く

     ……どうもねむられない……

         (そらおかあさんを

          ねむりのなかに入れておあげ……)

   杉の葉のまばゆい残像

   ぽつんと白い銀の日輪

     ……まぶたは熱くオレンヂいろの火は燃える……

         (せめて地獄の鬼になれ)

     ……わたくしの唇は花のやうに咲く……

   もいちどまばゆい白日輪

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         (ブレンカア)

         (こいづ葡萄だな)

     ……うす赤や黄金……

         (おい仕事わたせ

          おれの仕事わたせ)

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     朱塗のらんかん

         (百姓ならべつの仕事もあるだらう

          君はもうほんとにこゝに

          ひとをばかにして立ってゐるだけだ)

     南に向いた銅いろの上半身

     髪はちゞれて風にみだれる

     印度の力士といふ風だ

     それはその巨きな杉の樹神だらうか

     あるひは風のひとりだらうか