一九二四、七、五、
紺青の湿った山と雲とのこっち
夕陽に熟する古金のいろの小麦のはたけ
いいえ、わたくしの云ひますのは
いまのあんな暗い黄金ではなく
所謂 竜樹菩薩の大論の
あるひはそれよりもっと前の
むしろ quick gold といふふうの
そんなりっぱな黄金のことです
いま紺青の夏の湿った雲のこっちに
かながらのへいそくの十箇が敬虔に置かれ
いろいろの風にさまざまになびくのは
たしかに鳥を追ふための装置ではあるが
またある種拝天の余習でもある
……粟がざらざら鳴ってゐる……
※ 物質の特性は定量されないほどの
僅かづつながら時間に従って移動する
といふ風の感じです 誰でももってゐる
ありふれた考ですが今日は誰でもそれを
わざと考へないやうにしてゐるやうな
気もするのです