一五四

    単体の歴史

                  一九二四、七、五、

   

   紺青の湿った山と雲とのこっち

   夕陽に熟する古金のいろの小麦のはたけ

       いいえ、わたくしの云ひますのは

       いまのあんな暗い黄金ではなく

       所謂 竜樹菩薩の大論の

       あるひはそれよりもっと前の

       むしろ quick gold といふふうの

       そんなりっぱな黄金のことです

   いま紺青の夏の湿った雲のこっちに

   かながらのへいそくの十箇が敬虔に置かれ

   いろいろの風にさまざまになびくのは

   たしかに鳥を追ふための装置ではあるが

   またある種拝天の余習でもある

     ……粟がざらざら鳴ってゐる……

         ※ 物質の特性は定量されないほどの

           僅かづつながら時間に従って移動する

           といふ風の感じです 誰でももってゐる

           ありふれた考ですが今日は誰でもそれを

           わざと考へないやうにしてゐるやうな

           気もするのです

 

 


次の草稿形態へ→