峡流の夏
一九二四、五、二三、
木の芽が油緑や喪神青にほころび
重たく桐の花が咲き
風のぬるみと紫紺の雲に
柳の絮も羽虫も遠くひかってとべば
みんなは毘沙門天を祀る赤い幡をたづさへ
だゞれたやうに鳥のなく
いくつもの草の峠を越える
(余白~裏面)
木の芽が油緑や喪神青にほころび
あちこち四角な山畑に
桐が睡たく咲き出せば
この峡流の母たちは
めいめい赤い幡をたづさへ
きみかげさうの空谷や
だゞれたやうに鳥のなく
いくつものゆるい峠を越え
お堂にやってまゐります
毘沙門像のおすねには
だいじな味噌をなんども塗り
黄金の眼だまをきょとんとして
ふみつけられた天の邪鬼は
頭をいくどか叩きつけて(ここまでで中断)