一三九

     峡流の夏

                  一九二四、五、二三、

   

   木の芽が油緑や喪神青にほころび

   重たく桐の花が咲き

   風のぬるみと紫紺の雲に

   柳の絮も羽虫も遠くひかってとべば

   みんなは毘沙門天を祀る赤い幡をたづさへ

   だゞれたやうに鳥のなく

   いくつもの草の峠を越える

 

   (余白~裏面)

   木の芽が油緑や喪神青にほころび

   あちこち四角な山畑に

   桐が睡たく咲き出せば

   この峡流の母たちは

   めいめい赤い幡をたづさへ

   きみかげさうの空谷や

   だゞれたやうに鳥のなく

   いくつものゆるい峠を越え

   お堂にやってまゐります

   毘沙門像のおすねには

   だいじな味噌をなんども塗り

   黄金の眼だまをきょとんとして

   ふみつけられた天の邪鬼は

   頭をいくどか叩きつけて(ここまでで中断)

 

 


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