一〇六

     〔日はトパースのかけらをそゝぎ〕

                  一九二四、五、一八、

   

   日はトパースのかけらをそゝぎ

   雲は酸敗してつめたくこごえ

   ひばりの群はそらいちめんに浮沈する

       (おまへはなぜ立ってゐるか

        立ってゐてはいけない

        沼の面にはひとりのアイヌものぞいてゐる)

   一本の緑天蚕絨の杉の古木が

   南の風にこごった枝をゆすぶれば

   ほのかに白い昼の蛾は

   そのたよリない気岸の線を

   さびしくぐらぐら漂流する

       (水は水銀で

        風はかむばしいかほりを持ってくると

        さういふ型の考へ方も

        やっぱり鬼神の範疇である)

   アイヌはいつか向ふへうつり

   蛾はいま岸の水ばせうの芽をわたってゐる

 

 


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