〔日はトパースのかけらをそゝぎ〕
一九二四、五、一八、
日はトパースのかけらをそゝぎ
雲は酸敗してつめたくこごえ
ひばりの群はそらいちめんに浮沈する
(おまへはなぜ立ってゐるか
立ってゐてはいけない
沼の面にはひとりのアイヌものぞいてゐる)
一本の緑天蚕絨の杉の古木が
南の風にこごった枝をゆすぶれば
ほのかに白い昼の蛾は
そのたよリない気岸の線を
さびしくぐらぐら漂流する
(水は水銀で
風はかむばしいかほりを持ってくると
さういふ型の考へ方も
やっぱり鬼神の範疇である)
アイヌはいつか向ふへうつり
蛾はいま岸の水ばせうの芽をわたってゐる