一〇六

     石塚・

                  一九二四、五、一八、

   

   日はトパースのかけらをそそぎ

   雲は酸敗してつめたくこごえ

   ひばりの群はそらいちめんに浮沈する

   一本の緑天蚕絨の杉の古木が

   南の風に奇矯な枝をそよがせてゐる

   その狂ほしい塊りや房の造形は

   表面立地や樹の変質によるけれども

   またそこに棲む古い鬼神の気癖を稟けて

   三つ並んだ樹陰の赤い石塚と共にいまわれわれの所感を外れた

          古い宙宇の投影である

     (わたくしはなぜ立ってゐるか

      立ってゐてはいけない

      鏡の面にひとりの鬼神ものぞいてゐる

                第一九頁)

   およそこのやうに巨大で黒緑な

   そんな樹神の集りを考へるなら

   わたくしは花巻一方里のあひだに

   その七箇所を数へ得る

 

 


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