九九

     〔鉄道線路と国道が〕

                  一九二四、五、一六、

   

   鉄道線路と国道が、

   こゝらあたりは並行で、

   並木の松は、

   そろってみちに影を置き

   電信ばしらはもう堀りおこした田のなかに

   でこぼこ影をなげますと

   いたゞきに花をならべて植えつけた

   ちいさな萓ぶきのうまやでは

   馬がもりもりかいばを噛み

   頬の赤いはだしの子どもは

   その入口に稲草の縄を三本つけて

   引っぱったりうたったりして遊んでゐます

   柳は萌えて青ぞらに立ち

   田を犁く馬はあちこちせわしく行きかへり

   山は草火のけむりといっしょに

   青く南へながれるやう

   雲はしづかにひかって砕け

   水はころころ鳴ってゐます

   さっきのかゞやかな松の梢の間には

   一本の高い火の見はしごがあって

   その片っ方の端が折れたので

   赭髪の小さな gobblin が

   そこに座ってやすんでゐます

   やすんでこゝらをながめてゐます

   ずうっと遠くの崩れる風のあたりでは

   草の実を啄むやさしい鳥が

   かすかにごろごろ鳴いてゐます

   このとき銀いろのけむりを吐き

   こゝらの空気を楔のやうに割きながら

   急行列車が出て来ます

   ずゐぶん早く走るのですが

   車がみんなまはってゐるのは見えますので

   さっきの頬の赤いはだしの子どもは

   稲草の縄をうしろでにもって

   汽車の足だけ見て居ます

   その行きすぎた黒い汽車を

   この国にむかしから棲んでゐる

   三本鍬をかついだ巨きな人が

   にがにが笑ってじっとながめ

   それからびっこをひきながら

   線路をこっちへよこぎって

   いきなりぽっかりなくなりますと

   あとはまた水がころころ鳴って

   馬がもりもり噛むのです

 

 


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