四五

     海蝕台地

                  一九二四、四、六、

   

   日がおしまひの八分圏(オクタント)にはいってから

   そらはすっかり鈍くなり

   台地はかすんで優鉢羅華燈(うばらけたう)油の海のやう

     ……かなしくもまたなつかしく

       遍路の春の胸を噛む

       求宝航者(シンドバード)の海のいろ……

   そこには波がしらの模様に雪ものこれば

   いくつものからまつばやしや谷は

   あえかなそらのけむりにつゞく

     ……それはひとつの海蝕台

       むかしの海の記念碑である……

   たよりなくつけられたそのみちをよぢ

   わたくしはこのかなしい夕景のなかに消えていきたい

   ぼんやりつめたい四月のしろいそらになりたい

 

 


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