二五

     早春独白

                  一九二四、三、三〇、

   

   みぞれにぬれて急いで貴女(あなた)が電車に乗れば、

   ひるの電燈は雪ぞらにつき

   窓のガラスはぼんやり湯気に曇ります

   萱でつくった木炭(すみ)すごを

   もう百枚もせなに負ひ

   山の襞もけぶってならび

   川もごうごう激してゐる

   山峡のおぼろな霙のなかを

   赤く凍えた両手を頬で暖めながら

   この町行きの貨物電車にかけて来て

   あなたはわづかに乗ったのでした

      ……水はすきとほってまっすぐに降り

        雪はしづかに舞ひおりる

        ふしぎな春のみぞれです……

   みぞれにぬれてつつましやかにあなたが立てば

   ひるの電燈は雪ぞらに燃え

   ぼんやりくもる窓のこっちで

   あなたは赤い捺染フランのひときれを

   エヂプト風にかつぎにします

      ……氷期の吹雪は

        ときどき町の瓦斯燈を侵して

        住民たちを冷静にした……

   わたくしの黒いしゃっぽから

   つめたくあかるい雫が落ち

   どんよりよどんだ雪ぐもの下に

   黄いろなあかりを点じながら

   電車はいっさんにはしります

 

 


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