村道
一九二四、三、三〇、
電線は伸びてオルゴールもきこえず
赤楊の玻璃(ガラス)の網や
山の尖りも氷の稜も
あんまり淡くけむってゐて
まるで光と香だけでできてるやう
湿田(ヒドロ)の面はまだ氷晶をたもってゐるが
乾田(カタタ)の雪はたいてい融けて
青いすゞめのてっぱうも
もうあちこちに萌え出した
みちはやはらかな湯気をあげ
次から次と町へ行く馬の足なみはひかり
その一つの馬の列について来た黄いろな二ひきの犬は
尾をふさふさした巨きなスナップ兄弟で
ここらの犬とはげしく走って好意を交はす
ひばりはうろこ雲に飛び
また日の面のうす霧や
麩を買って羹をつくり
雪消の水に種籾をつける
今日は彼岸の終りである
何が出るともわからない
巨きな作のトランプ札の
まづ一枚が
今日おだやかにめくられる