不貪慾戒

   

   油紙を着てぬれた馬に乗り

   つめたい風景のなか、暗い森のかげや

   ゆるやかな環状削剥(くわんじやうせうはく)の丘、赤い萓の穂のあひだを

   ゆつくりあるくといふこともいゝし

   黒い多面角の洋傘(かうもりがさ)をひろげて

   砂砂(すなさ)糖を買ひに町へ出ることも

   ごく新鮮な企画である

      (ちらけろちらけろ 四十雀)

      稲と呼ばれるがさつな草の群落が

   タアナアさへもほしがりさうな

   さらどの色になつてることは

   慈雲尊者(じうんそんじや)にしたがへば

   不貪慾戒(ふとんよくかい)のすがたです

      (ちらけろちらけろ 四十雀(しじふから)

       そのときの高等遊民は

       いましつかりした執政官だ)

   ことことと寂しさを噴く暗い山に

   防火線のひらめく灰いろなども

   慈雲尊者にしたがへば

   不貪慾戒のすがたです

 

 


   ←初版本の形態へ