〔ひとひははかなくことばをくだし〕

   

   ひとひははかなくことばをくだし

   ゆふべはいづちの組合にても

   一車を送らんすべなどおもふ

   さこそはこゝろのうらぶれぬると

   たそがれさびしく車窓によれば

   外の面は磐井の沖積層を

   草火のけむりぞ青みてながる

   

   屈撓余りに大なるときは

   挫折の域にも至りぬべきを

   いままた怪しくせなうち熱り

   胸さへ痛むはかっての病

   ふたゝび来しやとひそかに経れば

   芽ばえぬ柳と残りの雪の

   なかばはいとしくなかばはかなし

   

   あるひは二列の波ともおぼえ

   さらには二列の雲とも見ゆる

   山なみへだてしかしこの峡に

   なほかもモートルとゞろにひゞき

   はがねのもろ歯の石噛むま下

   そこにてひとびとあしたのごとく

   けじろき石粉をうち浴ぶらんを

   

   あしたはいづこの店にも行きて

   一車をすゝめんすべをしおもふ

   かはたれはかなく車窓によれば

   野の面かしこははや霧なく

   雲のみ平らに山地に垂るゝ