隼人

   

   あかりつぎつぎ飛び行げば

   赭ら顔黒装束のその若者

   こゝろもそらに席に帰れり

   

   (まち)覆ふ膠朧光や

   夜の穹窿を見入りつゝ

   若者なみだうちながしたり

   

   大森をすぎてその若者ひそやかに

   写真をいだし見まもりにけり

   

      げに一夜

      写真をながめ泪ながし

      駅々の灯を迎へ送りぬ

   

   山山に白雲かゝり夜は明けて

   若者やゝに面をあげ

   田原の坂の地形を説けり

   

      赭ら顔黒装束のその隼人

      歯磨などをかけそむる